厳選された特殊清掃

面積は岩手県の面積に相当する150万ヘクタールともいわれ、これが原因で各地で水害が頻発して戦後、このはげ山に植林をして、保安林に変える事業が大々的に行われた。 この象徴となったのが、天皇・皇后両陛下ご臨席の植樹祭だった。
荒廃した山に木を植えることは決して悪くはない。 スギやカラマツといった木を中心に植えられたが、おそらく戦時中に伐り出されたのもスギやヒノキが多かっただろうから、そこに同じ針葉樹を植えたのは経済を考えてのことだろう。
荒廃した戦後の未植栽地は、こうして1956年(昭和31年)にはほぼ解消された。 ところが、政府はここでとんでもないことを考える。
戦後の復興がすすみ、経済が発展していくにしたがって、パルプ材や建築材を中心に木材の需要が高まっていた。 同時に木材価格も値上がりしていった。
そこで、大量の木材を確保するため、林野庁がとったのは「拡大造林」という政策だった。 東京タワー建設、新幹線開通、東京オリンピック開催などに象徴される昭和30年代の高度経済成長は木材の不足を招き、価格を高騰させていた。
そこで、建築材やパルプ材を確保するために、最初は奥地の原生林を伐りだした。 江戸時代から各藩で保護されてきた美林もこのとき伐採されたといわれる。
その跡地に、成長がよく商品価値が高いスギやヒノキ、カラマツを植えた。 ブナは伐期を迎えるまで200年かかるが、スギやカラマツなら50年で伐れるというわけだ。
その後、伐採地をさらに広げ、広葉樹は役に立たない雑木林として皆伐し、その跡地を人工林にしていく。 これが「拡大造林」だった。

1955年にK農林大臣は、国が責任をもって民有林を人工林に変えていく「国営造林」構想を打ち出した。 それに沿って林野庁は、1958年に「国有林経営合理化及び国有林生産力増強計画」を実施する。
1958年から1997年までの判年間で、森の生産力を2倍にしようというものだ。 これを計画したのは、旧農林省で農業を担当していた官僚たちだったという。
林学に農学的な考え方を取り入れることで、日本中を針葉樹で覆いつくそうと考えたのだ。 つまり、スギもダイコンも同じ地面に植えるのだから、山を畑と考え、スギをダイコンと見なして計画的に育成すれば、スギの生産力を増大できるという考え方だ。
このとき、全森林面積の2%を人工林化するのが目標だったという。 これを推し進めるためのシンボルが植樹祭だった。
だからこそ、天皇・皇后両陛下が植えられたのがスギやヒノキだったのだ。 林野庁は、「もっと成長しろ、早く成長しろ」と言わんばかりに、植えた苗木だけでなく、成木にまで肥料を与えたという。
木には自己施肥という機能がある。 落ちた葉や枝が土中の微生物によって分解されて肥料になる。
このように、木は自ら肥料を施している。 この自然の摂理を無視して化学肥料をまいたのだ。

拡大造林という愚かな政策が生まれたのは、林業を農業と同じように見なしたからだ。 スギやヒノキが木材として収穫できるのは最低でも半世紀後だ。
良質の木材にするには100年はかかるといわれる。 しかし農業は半年ほどで収穫できる。
当時の官僚たちは、半世紀たっても時代は変わらないと考えたのだろうか。 植えるときも凄まじい勢いだったが、伐るときも凄まじかった。
植えたばかりの木は使えない。 用材として収穫できるのが最低でも半世紀後なら、それまで伐採を制限しながら、既存の用材を丁寧に使っていくことが森林行政の基本だった。
ところが、高度経済成長が続くと、国民から「木材をもっと供給せよ、国有林を伐り惜しむな」といった声があがり、林野庁もそうした熱に一存かされたように、これまで手つかずだった奥地林の良材まで伐り倒してしまう。 その結果、昭和40年代以降、T寺大仏殿の改修、奈良薬師寺の西塔・講堂等の再建、放火により焼失した京都平安神宮の再建、その他数多くの社寺の新築や改修に大量のヒノキ良材を供給したのはどこか。
それはもはや日本国内ではなかった。 台湾中央部の山岳であったのであるといわれるほど、日本国内から優良な用材が消えてしまう。

こうした流れに反対したのが、森林学者である京都大学のS教授(当時)だった。 広葉樹林は林内に棲む大型哨乳類にとっては豊かな森林(「日本の森林」)であり、この広葉樹林を皆伐することは、林学の原則を無視した異常事態であると警告したのであった。
先生に、ぼくはさっそく手紙を書き、返事をいただくとご自宅へ向かった。 ところが、いまや日本の人工林の多くは、余った部分も利用できない「緑の砂漠」とも、「死の森」とも呼ばれるようになった。
林冠の葉が空を覆い、太陽光線が土壌まで到達せず、スギやヒノキ以外は草木一本も生えていない森のことだ。 こうなった原因は、伐り出せば伐り出すほど、赤字になるために放置されているからだ。
山に植えられたスギの立木価格が、1955年当時で1立方メートルあたり4478円儲かる林業にした国家の罪森は水資源を確保するためのものでもあり、動物や虫のためのものでもあり、また住みやすい住環境をつくるために必要など、さまざまな用途があります。 そういう視点で森づくりを考えると、木材生産はむしろ副産物です。
森をつくる上で余った部分を利用させてもらうということになるわけです(「森林はモリやハャシではない」)木材を伐り出すとは、森の恵みの余った部分をいただくことだとも、S先生は書かれている。 「スギを植えたら銀行預金より儲かる」といわれたのがこの頃だった。
そのうえ賛沢な補助金もあったから、国も民間も狂ったようにスギやヒノキを植えたという。 カネに目がくらんで、豊かな森をモノトーンの森に変えてしまったのだ。
ヒノキ林を5町歩ほど所有するぼくの知人が、こんなことを言ったことがある。 「あの頃は山から5,6本も木を伐り出せば、1カ月は遊んで暮らせた。
そのうえ、植えたら国から補助金をもらえる。 こんなうまい話はないさ。
だから、みんな欲の皮を突っ張らせて、血眼になって植えまくったのよ」本来は植えてはいけない斜面にまで植えたのは、補助金ほしさもあったのだろう。 昔から、花をたくさんつけるスギから種をとってはいけないといわれてきた。
それが、苗木の生産が追いつかないという理由で、そういう木からも苗木をとって植えた。 それが今、大量に花粉をつけていると林野庁の職員は言う。

S先生たちは質より量の時代がいつまでつづくか誰も保証はしてくれない(「日本の森林」と警告したが、植林ブームに踊る人には馬の耳に念仏だった。 この「拡大造林」以降、林業とは植林のことを指すようになった。
ところが、「拡大造林」がはじまって数年後、政府は木材の輸入自由化に踏み切る。 そして1964年には完全自由化が実施されるのである。
ビジョンなき森林行政とはこのことだろう。 当然というべきか、安い外国材がどんどん輸入され、木材の値段は下がる一方で、またたく問に国産のスギ材は太刀打ちできなくなってしまった。
いまや植林事業の完全な失敗で、林野庁は3兆8000億円もの負債を抱え込んでいる。 儲かると言われて踊らされたと思ったら、途端に突き落とされたのである。
採算がとれなければ放置されるのは当然で、こうしてスギ人工林は荒廃していく。

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